「ウッドショック」ってなに?マイホームの価格上昇はこれからも続くのか?

昨年の2021年に入ってから1年間、世界的に取引市場における木材の先物価格が急騰し、「ウッドショック」と呼ばれる木材の取引価格高騰が発生しました。

原因は米国内における住宅購入層の購買意欲が上昇したことによる木材需要の高騰とされていますが、はっきりとした要因は分かっていません。

このウッドショックによって今後の日本国内のマイホーム価格はどうなってしまうのか?

一部のハウスメーカーでは実際に数百万円程度の値上げを実施しているところもあれば、値上げがほどほどのハウスメーカーもあります。いったい何が違うのでしょうか?

平均的な木造一戸建ての新築に使用される木材の量から全体の価格を算出すると、マイホームの売り出し価格に占める木材価格の割合は1割程度といわれています。それであれば、数百万円の値上げっておかしくないのでしょうか?

今回の記事では、いまいちよく分からない「ウッドショック」の起源や現在の影響を踏まえて、今後のマイホーム価格の動向を解説していこうと思います。

目次

ウッドショックは日本だけではない?世界で木材価格が上昇した背景とは

このウッドショック、実は日本だけのことではありません。

ほぼ同時多発的に世界の主要各国の木材価格が上昇しています。

1970年代に起きた「オイルショック」の際には日本国内でもガソリンスタンドに長蛇の列、地元のスーパーではトイレットペーパーが売り切れ続出、その他の日用品の価格高騰が発生しました。

その時の価格高騰ぶりからなぞらえて、今回の木材不足も「ウッドショック」と呼ばれているようです。

主な原因として現時点では、以下に挙げたようなことが考えられています。

米国でのマイホームバブルの再来

まず、日本も米国も共通して言えることですが、2020年1月よりコロナウイルス感染症が猛威を奮い始めました。

米国内での景気改善策として、米国政府はそれぞれの米国内の銀行における住宅ローンなどの貸し出し金利の「基準となる金利」を引き下げました。金利を引き下げることで、住宅ローンを新たに組む人たちの金利支払い負担が減ります。

住宅ローンを借りた際の金利の支払いが減少するということは、マイホームを建てたいと願っていた米国内のファミリー層の購買意欲を刺激することになりました。米国政府が期待したとおり、米国内でのマイホームの建築件数が増加しましたが、同時に木材の使用量も増加します。

また、同じタイミングで米国内でもリモートワークが普及していきました。

コロナ対策の一環として人と人の接触を避けるためのリモートワークが普及したことで、より価格の安い郊外の一戸建て住宅を求めるファミリー層が増加していきます。しかも郊外ですので割安で購入できることもあり人気が爆発しました。

この住宅需要が増加したことは景気対策としては成功したといえると思います。現に、マイホームを一軒建築することで動くお金はとても大きく、その建築に関わるブルーワーカーの収入も増加することは米国内での一般消費の下支えとなり、米国の景気はコロナによる影響をあまり受けていないようにも見えるほどです。

しかし、そのマイホーム需要の爆発によって米国内で木材などの建築資材の供給不足が発生しました。

米国を含む北米地域から世界への木材供給は、木材自給率が低い世界の主要国が頼りにしているところです。当然、木材の提供はすぐに滞り始め、この「ウッドショック」につながったと言われています。

中国における木材不足、ヨーロッパ産の害虫問題

ウッドショック以前から、中国における木材需要はもともと長い増加傾向にあります。

中国では世界の主要国に比べても良好な経済成長がコロナ禍以前から継続していますが、中国の2019年の製材や丸太の消費量は2010年時点の消費量と比べると約23%増加しています。それに比べ、中国国内での木材生産量はほぼ横ばいで推移していますから成長に対して不足する分の木材の大半は輸入に頼っているわけです。

また、同じ時期にヨーロッパ産の木材が外注被害に遭うなどして生産量が低下、輸出高が減少していきます。製材となる前の丸太の中に害虫が潜伏しているのか判断するのが難しい上、駆除するためには薬品を使用する必要があり慎重な対応が取られていました。

木材の世界的な需要の増加、生産国の供給減少というダブルパンチによってこの「ウッドショック」が発生したんですね。

突発的な理由で発生したわけではなく、構造的な問題によっていずれは発生する可能性が潜んでいた問題だったように感じます。なにかしらのきっかけで問題が露見することはよくある話ですが、その類の問題の一つとして「ウッドショック」も分類されるのではないかと思います。

日本にはたくさん木があるのに、なぜ海外からの木材輸入に頼るのか?

問題の根本的な要因は世界的な木材需要の高まりに、生産供給が追いついていないということでした。海外からの木材輸入が遅れている、または価格が上昇しているのであれば、日本国内の木材生産はどのような状況なのでしょうか?

素人考えでは、日本国内の製材生産を一時的に増加させれば、需要に供給が追いついてウッドショックも収まっていくように感じます。

日本の木材自給率は4割弱しかない!?

家の周りを見渡すと、近くに山が見える方も多いと思います。

かつては、その山で製材業が盛んに行われていた高度経済成長期という時期が日本にはありました。しかし、今ではその製材業は廃れてしまい、安いカナダ産や米国産などの北米地域からの輸入木材にとって代わられています。

日本の木材自給率はそれ以降も下がり続け、今では日本国内の需要に対して国産の木材は約4割ほど、残りの6割を輸入木材に依存しています。

現在ではかつて林業に携わっていた労働者の高齢化が深刻であり、国内流通経路の諸問題で木材自体の供給価格の安定も難しくなってしまっています。つまり、国産木材の生産量を増加させるのは極めて困難ということです。

こうした背景から、以前のように日本国内で木材を生産し、継続して安定提供できなくなってしまっているんですね。

加えて、実際の価格の推移をみると、2021年5月時点での輸入丸太の取引価格は、2020年1月時点と比べると約1.2倍まで上昇しています。(参考)企業物価指数(日本銀行)

また、輸入製材価格に至っては1.4倍まで上昇しています。

今まで10,000円で仕入れていた輸入製材が、まったく同じ品質なのに14,000円になってしまっていることを考えると、マイホームの建築価格などに影響が出てしまっているのにも納得がいきますね。

価格高騰によって損をするのはハウスメーカーではなくマイホームを買う人?

ウッドショックを受けて、現在の戸建て新築に関する日本国内の需要状況はどうなっているのでしょうか。

国内の新築需要も海外と同様に、新型コロナウイルス感染拡大によって2020年4月には急激に落ち込みました。しかしその数ヶ月後には政府の景気テコ入れ策などの影響もあって同年8月までに急激に新築需要が回復しています。

結果として、2020年度の戸建て建築需要は前年の2019年度を上回る水準となりました。

建築業界で働いている方たちの所得水準はコロナ禍による影響をあまり受けることなく、年間を通じて安定していたといえると思います。

しかし、8月の急激な需要回復にウッドショックが直撃することになりました。

工事の遅れや木材価格の高騰による新規契約の価格の上昇が散見され、価格上昇分は購入する側が多くの出費を迫られる形となっています。当然、住宅ローンの金額も合わせて増加することで金利支払い負担も増加していると思います。

ウッドショックによりハウスメーカーや工務店は工事遅れの調整や資材調達の工面に大変な思いをされていると思います。しかし、木材価格の上昇分はハウスメーカーが負担しているわけではありません。当然、価格上昇分の値段は最終消費者である買う側に請求されます。

本来はもっと安くで建てることができたかもしれないのに、すこし割高な支出を迫られているのはハウスメーカーではなく、あくまで購入する側ということです。

2021年6月には大手住宅メーカーが1棟あたり100万円前後の値上げを発表し、その他のハウスメーカーも追随するように値上げを予定しています。

さらに、輸入木材というのはその他の家具やインテリアにも使われていますから、関連する商品へ価格上昇が波及してきています。住宅市場の冷え込みは景気に直結することから、2022年度も継続的に日本政府としてもなにかしらの対策を行なっていってほしいものです。

ウッドショックは今後どうなる?価格高騰はこれからも続くのか。

ここまで、ウッドショックの背景とその問題点を解説してきました。

輸入木材の価格上昇によっていろいろな弊害が生じているのはご説明してきたとおりですが、他に明るい話題もあります。

2021年8月時点で、世界の木材価格の指標となる米国シカゴ・マーカンタイル取引所の木材先物価格が減少に転じました。

世界的な取引所での先物価格の下落というのは、今後の木材価格の減少が期待できるわけです。

減少に転じた理由として、上記で説明した米国内での住宅需要が高止まりをみせているためであり、建築件数のピークを終えたかもしれないという憶測から木材の先物価格が下落に転じたと考えられています。

また、コロナ禍が収束しつつある現在のアメリカにおいて、金融緩和がいよいよ終わりを告げるという期待感もあります。

もし、本当にそうなれば、金利上昇の局面となって住宅ローン金利も上昇し、新築件数が伸び悩むことから木材使用量が減少、日本への輸出価格も減少して流通価格の安定につながるというわけです。

しかし、安易な期待もできません。

中国の木材需要は依然として高水準で維持されていますし、木材需要が今後も増加していくだろうと予想されているためです。

なかなか複雑ですが、ウッドショックが今後どうなるのか、2022年度の前半は目が離せない状況が続くと思います。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。

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この記事を書いた人

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